電気計測

(Vol.48,No.2)2000A以下の直流電流計の測定に関する一方法について

[技術ノート]2000A以下の直流電流計の測定に関する一方法について
Study of a measurement method for direct current ammeters up to2000A

下山昭彦・_高橋英樹・・_渡部英治・・(・標準研究グループ/・・校正サービスグループ)
A.Shimoyama_H.Takahashi_E.Watabe

1.はじめに
近年,太陽光発電や風力発電等によるエネルギー利用の増加等に伴い,産業界より2000A程度の直流電流計について校正の要望がでてきている.当所には5000Aまでの直流分流器(1)を校正できる装置(以下,大電流測定装置という)があり,この装置を活用することを検討したが,設置されている試験室の温度条件が要望される条件(23℃±1℃)に適合しない場合がある.さらに,校正と同時に温度特性試験も要望されることが多い.このため,温度条件を任意に設定可能な恒温室に大電流測定装置を設置できれば望ましいが,当所において他業務との共用設備である恒温室を占有して使用することはできない.また,この装置は,それぞれ数十kgの多数の重量物(電流源や電流線等)から構成されており,頻繁な移動を想定した構造になっていないことから,使用するたびに恒温室に搬入出することも現実的ではない.
そこで,必要に応じて恒温室あるいは適切な試験室に比較的容易に移動させることが可能な2000A以下の直流電流計の測定装置(以下,本装置という)を製作した.
本装置では,複数の電流源や電流線等をそれぞれ並列に接続して使用することで個々の重量を軽減し,可搬性に配慮した.本装置の構成要素のうち最も重い電流源(4台で構成)でも1台あたりでは約15kgであり,作業者一人で移動させることも困難ではない.また,試験電流を検出する電流センサについては個々の電流源に対して1台ずつ(合計4台)使用することで,1台あたりが軽く小さくなる.これらより電流センサを校正する際の不確かさの低減や校正作業の負担の軽減を試みた.
本文では,本装置の構成を述べるとともに,依頼品を模擬した直流電流計に対して測定を行った結果について述べる.

2.本装置の測定原理
本装置の測定原理図を第1図に示す.校正依頼が想定される直流電流計は,ディジタル電圧計と直流分流器の組み合わせで構成されており,本装置ではこれを測定対象とする. 標準器は,電流センサ,標準抵抗器及び直流電圧計で構成される.電流センサは,入力電流を公称比で除した大きさの電流を出力する機器である.電流センサに流れ込む電流を一次電流,電流センサから出力される電流を二次電流としている.この二次電流を標準抵抗器で電圧変換し,直流電圧計で測定する.
第1図 測定原理図 直流電流計の校正値は,(1)式より求められる. Ix=Kcs(Vsm+Vsc)/Rs   (1)式

Ix:直流電流計の校正値
Kcs:電流センサの比(一次電流/二次電流)の校正値
Vsm:直流電圧計の測定値
Vsc:直流電圧計の補正値
Rs:標準抵抗器の校正値
測定値は,5回繰返し測定した値の平均値を使用する.当所での直流分流器の測定時間は,最長で30分程度である.そこで,本装置による測定時間も30分を目途とした.

3.本装置の構成
3.1 回路の概要

本装置のブロック図及び仕様を第2図及び第1表に示す.電流源(dca_sou)は,並列に接続した4台の電流発生器(dca_sou1~dca_sou4)で構成される.本装置は,恒温室や試験室の間を移動させる必要があることから,小容量の電流発生器を複数台使用することで1台あたりの重量の軽減を図った.使用する電流発生器の台数については,恒温室及び試験室の空間の広さ等を考慮し選択した.

第2図 本装置のブロック図

第1表 本装置の仕様

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測定範囲  直流電流上限2000A※1
直流電圧計 100mVレンジ1台
標準抵抗器 0.1Ω 4台
電流センサ 定格一次電流900A 4台(公称比一次電流:二次電流1500:1)
電流線   1本の断面積 150mm2× 8本(1200mm2)
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※1:電流の下限は検討中

標準器(dca_s)は,電流センサ4台(dca_s_sen1~dca_s_sen4),標準抵抗器4台(dca_s_r1~dca_s_r4),直流電圧計1台(dca_s_vmet)及びスキャナ1台(dca_s_sca)で構成されている.電流センサの校正に関して,当所では,試験電流500A超の場合と500A以下の場合では使用する校正装置と標準器が異なり,500A以下では校正作業の負担が軽く,校正の不確かさも小さい.そこで,電流源と同様に複数の電流センサを並列に使用することで電流センサ1台あたりに流れる電流の低減を図り,1台の電流発生器に対して1台の電流センサを使用することとした.これにより,1台あたりの電流センサの重量を軽減させることにもなり,4台の電流センサに流れる電流を均等にすることも可能となる.電流源から2000Aを出力した場合,電流センサ1台には約500Aの電流が流れる.各標準抵抗器からの出力電圧については,スキャナを介してディジタル電圧計で測定する.
測定対象である直流電流計(dca_x_met)の校正値は,(2)式で表される.

Ix=Σ Kcsj(Vsmj+Vsc)/Rsj  (2)式 

Kcsj:電流センサの比の校正値(j:1~4)
Vsmj:直流電圧計の測定値(j:1~4)
Rsj:標準抵抗器の校正値(j:1~4)

標準器と直流電流計の測定,電流源の制御及びスキャナの切換についてはコンピュータを利用して自動化している.
2000A等の試験電流を流すための電流線は,電流源と並ぶ重量物である.そこで,複数の導線を並列に接続して使用することで1本あたりの重量を約2kg程度とした.この電流線には,本装置の移動前後における結線の作業性を考慮し,断面積が増加しても可とう性に優れた平編銅線(1200mm2)を使用した.実験の結果,試験電流2000Aでの電流線表面の温度上昇の最大値は,通電時間が30分では約9℃,60分では約12℃であった.

3.2 電流源
本装置の電流発生器には,最大出力電流530A(最大出力電圧6V)の松定プレシジョン㈱製PRK6-530を使用した.1台あたりの重量は約15kgであり,作業者一人でも運搬は困難ではない.この電流発生器にはマスタに設定した1台を制御することで他の電流発生器も同時に制御できるマスタ/スレーブ機能があり,この機能を利用して最大2000Aの出力を実現している.電流発生器の分解能は0.1Aであるが,マスタ/スレーブ機能を使用すると,電流源としての分解能は0.4Aになる.電流発生器の冷却ファンの排気により試験室の温度上昇が大きくなることを避けるため,ダクトで測定回路の外へ排出することとした.

3.3 標準器(試験電流測定部)
今回,試験電流の変換に使用した電流センサ(LEM製ITN-900S)は,一次定格電流が900Aで,一次電流と二次電流の比が1500:1である.電流センサの一次側は貫通型であり,一次側と二次側は絶縁されている.電流センサと一次側の電流線の接続には,貫通部に銅四角棒を使用した.
電流センサを校正するための回路及びその結果をそれぞれ第3図及び第4図に示す.電流センサ(dca_s_sen)の比は,標準器(dca_sa)で求めた一次電流Isa1と,直流電圧計(dcv_met)の表示値の校正値及び標準抵抗器(dcr_r)の校正値から求めた二次電流Isa2より求められ,(3)式で表される.

Kcs=Isa1/Isa2  (3)式

Kcs:電流センサの比の校正値
Isa1:一次電流の校正値
Isa2:二次電流の校正値

ここで,Isa2は,(4)式で表される.

Isa2=(Vsmj+Vsc)/Rsj  (4)式

Vsam2:直流電圧計(dcv_met)の測定値
Vsac2:直流電圧計(dcv_met)の補正値
Rsa2:標準抵抗器(dcr_r)の校正値

第3図 電流センサの校正回路(ブロック図)
第4図 電流センサの校正結果

今回見積もった電流センサの校正の不確かさは,標準不確かさで0.005%程度であった. 標準抵抗器には,アルファ・エレクトロニクス㈱製LSRR10等の四端子型の定格0.1Ωを使用した.標準抵抗器がLSRR10の場合,製造者の仕様では,温度係数が±2.5μΩ/Ω/℃,経年変化が±10μΩ/Ω,最高で6.32Aの電流が通電可能である.試験電流が2000Aの場合,標準抵抗器には約0.3A(電流センサ1台あたり500A/1500)が流れる.標準抵抗にこの0.3Aを60分間流して抵抗値のドリフトを観測した結果,本装置による測定には影響しない程度であることを確認した.
直流電圧計には,HP製3458Aを使用した.なお,100mVレンジの場合では,製造者の仕様で経年変化が10μV/V(1年仕様)程度である.
また,本装置では各標準抵抗器からの出力電圧をスキャナで順次切り替えて1台の直流電圧計で測定しているため,測定中の試験電流のドリフトが測定値に影響する.この手順による測定結果への影響は,試験電流2000Aを通電して1分後では±0.003%程度,30分後では±0.001%程度であると推測するが,電流発生器ごとに異なるドリフトの評価が現時点では十分ではないため,詳細は今後調査する必要がある.

4.本装置による直流電流計の測定
直流電流計(以下,被測定器という)を本装置により測定し,その結果を検証するため被測定器の校正値と比較した.

4.1 被測定器について
被測定器のディジタル電圧計及び直流分流器には,校正済みのHP製3458A及び直流分流器1A1(以下,1A1という)を使用した.
1A1(定格10μΩ,公称電流/公称電圧:10000A/0.1V)は,銅筒で覆われた抵抗体(マンガニン(2))を冷却水用プールに水を循環して冷却できる構造となっている.ただし,実際に校正の依頼が想定される直流電流計を構成する直流分流器にあわせて,ここでは水冷せずに使用する.この1A1は,当所で500A超過の電流が通電可能な大電流測定装置により校正されている.大電流測定装置は,5000Aまでの試験電流に対応した装置であり,断面積の大きい電流線(約5000mm2)で生じる熱による温度上昇が本装置に比べて小さい.さらに,転極測定を行う直流分流器として校正したため,1A1の自己加熱及び電流線や電流端子の接続部で生じる熱に起因する熱起電力の影響はほぼ打ち消されている.なお,測定の再現性を高めるために,測定時の試験室の温度及び1A1の銅筒の表面温度を監視し,測定開始時には毎回±1℃以内で一致していることを確認している.

4.2 測定結果
被測定器を試験電流2000Aにおいて本装置で60分間測定した.なお,本装置では極性が定まった直流電流計を対象としているため転極しての測定は行わない.ただし,測定前の熱起電力の影響については,電流線等を室温に十分馴染ませた後にディジタル電圧計の零補正を行い低減させている.
本装置での測定で得られた被測定器の誤差と,ディジタル電圧計及び直流分流器1A1の校正値から求めた誤差との差Δεiを求めた結果を第5図に示す. Δεiには,①両測定における測定開始時の1A1の温度や室温等の差異,②被測定器の校正の不確かさ,③電流センサの校正の不確かさ,④試験電流のドリフト,及び⑤試験電流により生じる熱に起因する熱起電力の影響が含まれると推測した.①②③の影響は測定中に変化せず,全ての測定点でほぼ同じ大きさであり,④の影響は測定点ごとに変化するが,前述のとおり1分後では±0.003%程度,30分後では±0.001%程度であると推測する.⑤の影響は時間の経過とともに増える要因である.ここで,大電流試験装置の測定では転極によりこの熱起電力を打ち消しているが,本装置では打ち消していないことから,Δεiの時間の経過にともなう変化Δεicは主に⑤の影響と考える.

第5図 測定結果Δεi(試験電流2000A)

5.おわりに
本文では,2000A以下の直流電流計を測定する装置の構成について述べた.本装置は,恒温室や試験室に移動させて所望の温度条件で試験を行うために,個々の構成要素が軽量で小型となるように設計されている.ただし,運搬しなければならない構成要素の数や,校正が必要な電流センサの数が増えた.このため,移動のための作業や管理の負担が増加するが,今後,これらを軽減するための調査を行う.
また,測定結果に影響を与える要因について検討したが,まだ推測を多く含むことから,本装置の測定に関する要因については,ひきつづき調査を進めていく必要がある.今後は,本文で得られた結果を利用して,本装置の各要素の検証を行いながら装置の製作を行う.
最後に,本装置の製作に多大なご協力,ご指導をいただいた技術研究所及び標準部の方々,並びに関係諸氏に深甚の謝意を表します.

参考文献
(1)直流電圧・電流の測定:日本電気計器検定所
(2)抵抗測定の基礎:日本電気計器検定所 (平成25年3月22日受付)

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電気検定所技報Vol.48,No.2 (p17)

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