直流抵抗校正用室温型電流比較ブリッジの評価

電気計測

(Vol.46,No.1)直流抵抗校正用室温型電流比較ブリッジの評価

[研究]直流抵抗校正用室温型電流比較ブリッジの評価
Evaluation of Room Temperature Type Direct Current Comparator Bridge

阿部 隆行・(・技術研究所)
T.Abe

A manual type direct current comparator bridge (DCCB) has been used in the calibration service of the DC resistance in National Metrology Institute of Japan, Advanced Industrial Science and Technology (NMIJ/AIST) and in Japan Electric Meters Inspection Corporation (JEMIC).However, automatic type DCCBs have been utilized by many calibration services in general in recent years, NMIJ/AIST plans to adopt automatic type DCCBs in place of manual type DCCBs.< Detailed evaluation of an automatic DCCB has been carried out, and it has been confirmed that reliability of the measurement was better than that of the current manual system.

1. はじめに
 現在,直流電気抵抗は量子化ホール抵抗が起点であり,1990年より国際度量衡委員会の勧告に従い,量子ホール効果抵抗標準のための協定値RK-90(25812.807Ω)を用いて国際的に整合性のとれた標準供給が行われている.
 通常,国家計量標準研究所が保有する実用標準抵抗器群の校正は,量子化ホール抵抗と極低温電流比較器を用いて行われる.一方,国家計量標準研究所が実用標準抵抗器群を基に産業界の標準抵抗器を校正する場合やJCSS登録事業者等で一次標準に近い校正を行うときは,操作が容易で企業の校正室でも広く使われている市販の室温型直流電流比較ブリッジ(DirectCurrent Comparator Bridge:DCCB)(1)が用いられる.DCCBには手動型と自動型があるが, 手動型は使用者の技術力・熟練が求められることや,校正に比較的長い時間を要するなどの改善すべき点があった.そのため,先駆的な企業ではこれらの問題を改善するために,自動型DCCBを導入し実用している.このような背景を踏まえ,導入のための検討を始めるにあたり,データの繰返し性等の調査をしたところ,最新の機種では国家計量標準業務や一次標準に近いJCSS校正において必要な条件を満足するとの心証を得た.そこで,独立行政法人産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ)と日本電気計器検定所(JEMIC)では自動型DCCBを入手して評価を行うことにした.
 本稿では,校正系へ導入するにあたって自動型DCCBが満たすべき基準と評価方法の一例を示し,実際に評価を行った結果を報告する.

2. 電流比較器の原理
 電流比較器の基本原理を第1図に示す.ヒステリシスの少ない角形特性のトロイダル鉄心に二つの巻線を巻き,これにIl,I2の電流を流し鉄心内に発生する磁束Φ1,Φ2が互いに逆方向にできるようにし,Φ1,Φ2となるように電流または巻き数を調節すれば,次式となる.
N1I1=N2I2 …式(1)
 なお,Φ1Φ2=0を検出するためには磁気変調器を利用する.
 第3の巻線に周波数fの十分な大きさの交流を加えれば鉄心内の磁束は飽和し台形波となる.もし直流磁束のΦ1とΦ2に差が生じた場合には,第4の巻線に発生する信号には,第2高調波2fの成分が含まれる.したがってフィルタを用いてこの2f成分を検出すれば,磁束が0であるかが分かる(2).

3. 自動型DCCBについて
 本報で評価対象とする自動型DCCBは,Measurements International(MI)社製6010DJ型ブリッジである.このブリッジの製造者が標榜する仕様を第1表に示す.なお,自動型DCCBの評価実験は,安定的な標準抵抗器を用いる必要があるため,23℃において約±0.004℃の温度安定度を有する恒温油層に収納した温度係数が+0.5ppm/℃以下の2つの標準抵抗器の比を測定することで行っている.

第1図 電流比較器の原理
Fig. 1 Principle of current comparator
第1表 表6010 DJ 型DCCB 仕様
Table 1 Specification of DCCB model 6010 DJ

4. ブリッジの測定能力の評価
 ブリッジ等の測定装置の評価における重要な要素として繰返し性,ばらつき及び測定におけるかたよりがある.これらについて実際に評価した結果は以下のとおりである.

4.1 繰返し性とばらつきの評価
4.1.1 繰返し性の問題
 繰返し性とばらつきについて,当初,実際の校正を想定して,経験的に25標本で評価を行っていた.しかし,測定結果を精査したところ理想的なばらつきではないことが判明した.測定における理想的なばらつきとは,最良推定値を中心として直前の値とは無関係に正規分布することであるが,本機種における測定された標本には第2図に示すとおり周期性があることを確認した.そこで,標本数の再定義を行うため測定結果より自己相関を評価することとした.1kΩ:100Ωのときの自己相関を算出した結果を第3図に示す.理想的なばらつきの場合,第3図における理想的な自己相関のカーブ(ideal autocorrelation)が描かれるが,評価対象のブリッジの場合,同図のプロットに示されるような周期性が認められた.そこで,抵抗比10:1と1:1における1Ωから10kΩの範囲で自己相関の計算を行い,周期性を評価した結果を第2表に示す.同表から,最大15標本程度の周期性が判明したため,1周期を15標本とすれば保守的に見て問題が無いと判断し,統計処理を考慮して1周期の20倍の標本数である300標本で再評価することにした.

第3図 1kΩ:100Ωのときの自己相関
Fig.3 Autocorrelation at 1kΩ:100Ω

4.1.2 パラメータの設定
 このブリッジでは測定条件に関するパラメータを設定する必要があるが,そのなかでも測定に大きな影響を与えるパラメータとして電流反転後,測定出力が安定した後の測定データ読み取り数(# of A/D Readings,ここではNとしておく)がある.測定点数(標本数)を設定すると,その標本ごとにN回の測定がなされる.つまり得られる測定データは,標本数×N回の測定が行われた結果である.
 抵抗比10:1及び1:1の代表的な測定におけるNの設定を1から48までの数値にし,それぞれの設定値における300標本程度の標準偏差のグラフを第4図に示す.この結果より標準偏差の数値が最小値に近く,そのなかでも効率的に測定を行うために最も小さいNをそれぞれの比における採用値とした.この実験の結果により求められたNは第3表のとおりであり,製造者がマニュアル(3)において推奨する設定値の2倍程度の結果となった.

第2表 6010 DJ の測定における周期性
Table 2 Periodicity in measurement by 6010 DJ
第4図 Nの各数値における標準偏差
Fig.4 Standard deviation of resistance ratio as a function of N in each value of N
第3表 Nの採用値一覧
Table 3 List of Adopted value of N

4.1.3 エルゴード性の評価
 Nを1に設定し複数回データを入手した場合と,前項において設定したパラメータにより採用した比較的大きな集合平均の数値との統計的確率が一致すること(エルゴード性)の確認を行った.エルゴード性を評価することにより,ある量の時間平均が集合平均と一致するという確率過程上の性質を確認することができる.すなわち,Nの設定値を1とした場合の時間平均とNが2以上の集合平均との一致度の評価を行う.具体的にはN=1の24標本の平均値のばらつきとN=24の標本のばらつきが同じレベルであることを確認する.このようにN=1からN=48(64)までの代表的な数値のばらつきの比較を行った.
 代表的な10:1及び1:1の測定結果を第5図から第12図に示す.
 この結果より1Ωから10kΩまでにおける抵抗比10:1及び1:1の測定ではNの設定値が小さい場合,ばらつきが大きくなることが判明した.原因として測定出力が安定した後であっても読み取り開始直後のばらつきが大きいことが挙げられる.したがって,この影響が少なくなるNが8以上であればエルゴード的であることが確認された.

第5図 1Ω:1Ωのエルゴード性の評価
Fig.5 Evaluation of ergodicity of 1Ω:1Ω
第6図 10Ω:10Ωのエルゴード性の評価
Fig.6 Evaluation of ergodicity of 10Ω:10Ω
第7図 100Ω:100Ωのエルゴード性の評価
Fig.7 Evaluation of ergodicity of 100Ω:100Ω
第8図 1kΩ:1kΩのエルゴード性の評価
Fig.8 Evaluation of ergodicity of 1kΩ:1kΩ
第9図 10Ω:1Ωのエルゴード性の評価
Fig.9 Evaluation of ergodicity of 10Ω:1Ω
第10図 100Ω:10Ωのエルゴード性の評価
Fig.10 Evaluation of ergodicity of 100Ω:10Ω
第11図 1kΩ:100Ωのエルゴード性の評価
Fig.11 Evaluation of ergodicity of 1kΩ:100Ω
第12図 10kΩ:1kΩのエルゴード性の評価
Fig.12 Evaluation of ergodicity of 10kΩ:1kΩ

第13図 各抵抗比を300標本測定した平均値の変動
Fig.13 Variation of the averages of 300 measurements of resistance ratios
第4表 1:1比測定におけるかたより Table 4 Bias in Ratio in 1:1 measurement

4.1.4 評価結果
 測定の繰返し性とばらつきについて,抵抗比10:1と1:1の測定を1Ωから10kΩの範囲で評価を行った.
 抵抗比10:1では,被校正器(Rx)側に10Ω,参照標準器(Rs)側に1Ωの標準抵抗器をそれぞれ接続して抵抗比をDCCBで測定し,同様に100Ω:10Ω,1kΩ:100Ω及び10kΩ:1kΩについても測定した.抵抗比1:1では,1Ω,10Ω,100Ω,1kΩ及び10kΩの標準抵抗器をそれぞれ2台用意し,Rx側とRs側に同じ公称値の抵抗器を接続して,同様に抵抗比を測定した.これら抵抗比10:1と1:1の繰返し性とばらつきの評価結果を第13図に示す.グラフの1点は300標本の平均値を示し,エラーバーの片側の長さは300(=15×20)標本の標本標準偏差を'20で割ったものの2倍であり,これは不確かさ評価の際のタイプAの大きさである.
 第13図より,抵抗比10:1の測定において良好な繰返し性,かつ,ばらつきの小さい標本が得られたと結論できる.また,10Ω:10Ω,10kΩ:10kΩ及び10kΩ:1kΩの測定を除き,平均値の標準偏差は0.01ppm以下であった.

4.2 1:1測定におけるかたよりの評価
 かたよりは,抵抗比1:1の測定で評価する.つまり,同じ公称値の標準抵抗器を使用する測定で,定義式はRxとRsに接続する抵抗器を交換して測定した結果から,交換する前の測定結果をa,交換した後の測定結果をbとし,次式でかたよりRbiasを求める.

Rbias=(a+b)I2 …式(2)

 したがって,第4表に示す結果より,10kΩ:10kΩ以外の比については,かたよりの絶対値は十分小さい範囲(<0.02ppm)に収まっていると結論できる.

5. まとめ
 市販の自動型DCCBのうち1機種について,その抵抗比測定における繰返し性,ばらつき及びかたよりを評価した.当初の想定と異なり測定結果が理想的にばらついておらず周期性をもつという性質が,比較的少数の標本(例えば25標本)の平均値に基づく処理では十分考慮されていなかったことが判明したため,自己相関を評価し1周期を15標本として20倍の標本点数の300標本で再評価を行った.その結果,国家標準に基づく高精度校正では10kΩ:1kΩ及び10kΩ:10kΩの測定を除き,着目した評価項目のほぼすべてについて耐える性能を示した.また,JEMIC等の一次標準に近いJCSS登録事業者の校正では着目した評価項目のほぼすべてについて耐える性能を示した結果となった.したがって,今回評価した機器を導入することで,抵抗比1Ωから10kΩの校正におけるタイプAの不確かさは,測定対象の安定度にもよるが,現行の校正系の半分程度に低減できると期待される.ただし,実用に供するには本稿で評価した以外の不確かさ要因も評価する必要があり,経験的に多くの場合,拡張不確かさはここで示したタイプAの不確かさの約2倍から5倍の0.2ppmから0.5ppm程度を予測している.
 今後は現行校正系との整合性を確認し,自動DCCBと自動スキャナを用いた新校正系に更新することで,校正サービスをより短期間に,より小さい不確かさで行うことを目標としている.

6. おわりに
 今回の研究を進めるにあたり,ご指導,ご協力いただいた独立行政法人産業技術総合研究所計量標準研究部門電磁気計測科電気標準第2研究室の金子晋久室長,坂本泰彦氏,大江武彦氏に深く感謝いたします.

参考文献
(1)W. J. M. Moore and P. M. Miljanic, The Current Comparator, IEE Electrical Measurement Series 4 とその参考文献
(2) 菅野允:改訂電磁気計測 昭和 57 年初版発 行
(3)Measurements International Automatic Resistance Bridge Model 6010 D Operation Manual Rev. 1 2006 (平成22年10月28日受付)

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電気検定所技報Vol.46,No.1 (p1)

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