温度校正

温度校正

(Vol.50,No.5)近赤外放射温度計用の面積効果自動測定装置の製作

[技術ノート]近赤外放射温度計用の面積効果自動測定装置の製作
An automatic size-of-sourceeffect measurement system fornear-infrared radiation thermometers

佐藤弘康(・標準部)

1. はじめに
放射温度計で物体の温度を測定する場合,その物体の見かけの面積が放射温度計の視程より十分大きい場合であっても,その見かけの面積によって放射温度計の出力が異なる場合がある.
これを面積効果(Sizeof-sourceeffect,以下「SSE」という.(1)〜(4).
例えば,実現温度は同じであるが開口径の異なる定点黒体炉の温度を放射温度計で測定したとき,面積効果のため放射温度計の示す温度に差が生じることがある.
そのため放射温度計で厳密に温度を決定するためには,面積効果による影響を補正しなければならない.
面積効果が生じる原因としては,測温対象から放射温度計までの空間で起きる光の散乱や,放射温度計の光学系の収差や不完全性,及び内部の光の乱反射などが考えられている(5)〜(7).
これらの原因により本来なら検出器に届くべきである光が届かなかったり,逆に届くべきでない光が届いたりすることで,放射温度計の出力が本来の値とは異なってくる.
そして,その大きさは測温対象の見かけの面積に依存する.
放射温度計の校正において,面積効果は補正されるべき重要な要因であるが,実際の校正では評価されていないのが現状である.
今回,校正結果に反映させることを目的に,測定波長650nmと900nmの単色放射温度計を主対象とした面積効果測定装置を製作し,その測定結果の妥当性を確認したので報告する.

2. 面積効果の測定方法と原理
2.1 測定方法
面積効果の測定方法は,直接法,間接法(8),スキャニング法(9)の3種類が考案されている.
直接法と間接法は開口径10cm〜 15cm程度の大きさの積分球を使用し,複数の直径の異なる円形絞りを交換しながら放射温度計の出力変化を測定する.
直接法は積分球の光を直接測定するため放射温度計の出力は大きいが,積分球のランプの安定性に依存してしまうのが欠点である.
その欠点を改善したのが間接法である.
積分球開口に放射温度計の視程より若干大きい黒点を設置し,その黒点に焦点を合わせ,周囲の光量を円形絞りで変化させて出力を測定する(第1図).
この方法は出力が小さいためS/N比が悪くなるのが欠点であるが,測定の不確かさを直接法より小さくできることから,多くの国立研究機関で近赤外の単色放射温度計の評価に採用されている.
スキャニング法は,放射温度計の視程よりわずかに大きい円形絞りを使用し,絞り径を変化させずに放射温度計を移動させてその出力変化を測定する方法である.
この手法の利点は小型の積分球または温度安定性の良い小型黒体炉でも大きいサイズの面積効果を測定できることにあり,また中赤外域放射温度計の評価にも応用可能なことにあるが,欠点はデータの数値解析が難解なことにある.
上記3手法による測定結果の同等性は,スキャニング法を開発したP.SaundersとH.Edgarによって証明されている(9).

第1図 直接法と間接法で使用する絞りの違い

間接法はデータ解析が容易であり再現性が良いことと,産業技術総合研究所(以下,「産総研」という.)で実施された測定結果との比較が容易であることから,当所でも間接法を採用し,専用の測定装置を製作した.

2.2 測定原理
間接法による面積効果は次式で表される(10).
ここで,xは積分球開口部に付けた絞りの直径,onとoffは黒点の有無,vは放射温度計の出力を表す.
即ち,同一径の絞りにおいて,黒点無しと,黒点有りのときの出力の比で表される.
ここで重要なことは,光源の輝度の安定性と均一性が高いこと,黒点と絞りは完全な遮蔽体であることである.
通常,黒点は石英ガラス上に付けられる.
そのため測定は,「黒点のある石英ガラス」と「黒点の無い石英ガラス」を交互に交換して行う必要がある.
しかしこの作業を測定毎に行うことは非常に手間を要し,かつ石英ガラスの設置状態のわずかな違いで測定結果に影響する可能性があるため,現実的手法ではない.
そこで絞り径が黒点直径に対して十分大きい場合には,放射温度計の視程をわずかに移動させることにより「黒点無し」の測定を代用することが多い(10).
この手法では,光源の光量ムラによる影響を軽減させるため,放射温度計の視程の移動は黒点の左右もしくは上下の2箇所とし,その平均値を採用する.
放射温度計の視程の移動量は,黒点及び絞りの影響を受けないことを確認して決定する.
また,絞り径が黒点直径に対して十分大きいといえない場合には,黒点を固定したまま絞りと放射温度計を平行移動させて測定を行う.

3. 装置概要と測定手順
3.1 装置概要
積分球は,放射温度計の出力が十分大きくなるような輝度があり,その輝度は開口部において均一であることが必要である.
今回採用した積分球は直径300mm,開口部100mmであり,内部は硫酸バリウムコーティングが施されている.
製造者の仕様では可視から近赤外域における分光反射率は95% 以上,開口部の均一度は± 2% 以内とされている.
当所で使用している黒体炉の開口径は最大で65mmであることから,面積効果評価用として本積分球の開口径は十分な大きさである.
ハロゲンランプの点灯電流は専用ソフトウェアによりPCで制御する.
積分球開口の直前に設置する絞り板には反射率の低い艶消し黒塗装(NEXTELVelvet-Coating,TM)を両面に施してあるが,一部の光は絞り板内側で反射して積分球側に戻るため,絞りの大きさにより反射面積が変わると積分球の見かけの輝度も変化してしまう.
この輝度変化を補償するため積分球内部にはフォトセンサーが設置されており,積分球の輝度はランプ点灯電流のフィードバック制御により一定に保たれる.
絞りの交換は手作業が一般的であるが,効率化のため複数の穴を開けた一枚の大きなアルミ板を上下左右に電動制御することで絞り交換を自動化した.
アルミ板のサイズは600mm×450mm,穴の大きさは6mm,9mm,13mm,18mm,25mm,36mm,51mm,72mmとした.
これは穴のサイズが一段大きくなると面積(すなわち光量)が約2倍となるように設計した.
石英ガラスに張り付けた黒点は,直径6mmの金属円板に絞り板と同じ黒塗装を施したものである.
金属円盤であるため,光が透過する問題はない.
当所では開口径6mm以下の定点黒体炉は所有していないため,これより小さい直径の面積効果測定は現在のところ必要としていない.
放射温度計は,基本的には黒点から対物レンズまで400mmの位置に設置する.
放射温度計を設置するステージ・熄繪コ前後方向に電動で± 50mmの範囲で微調整可能である.
前述した「黒点無し」の測定は,この電動ステージを活用して行う.
第2図に積分球,第3図に絞り板と放射温度計の写真を示す.

3.2 測定手順
測定は次の順で実施する.
@絞り板を移動して積分球の開口を完全に覆い,放射温度計のオフセット電圧を測定する.・V1・
A絞り板を移動して黒点と絞りの中心を一致させ,「黒点有り」の出力を測定する.・Vbs1・

第2図 積分球
第3図 絞り板と放射温度計

B黒点の上方向で「黒点無し」の出力を測定する.・Va1・
C黒点の下方向で「黒点無し」の出力を測定する.・Va2・
D絞り板を移動して黒点と絞りの中心を一致させ,「黒点有り」の出力を測定する.・Vbs2・
E絞り板を移動して積分球の開口を完全に覆い,放射温度計のオフセット電圧を測定する.・V2・面積効果の計算は次の式による(10).

4. 測定結果
単色放射温度計2台(測定波長650nm及び900nm)の面積効果測定結果を第4図と第5図に示す.
この2台の放射温度計は特定副標準器に指定されているもので,2年毎に産総研で校正及び面積効果測定が実施されている.
図中の黒丸及び実線が本測定装置による測定,白丸及び波線が産総研による測定である.
なお曲線は対数関数の近似式によるものであり理論値ではない.
当所と産総研の測定結果の差は,放射温度計の個体差によって変わる可能性もあるが,650nmと900nmの絞り9mmにおいて当所の測定結果が約0.02% 大きくなる傾向を示した.
絞り6mm〜 13mmの範囲の面積効果測定は,定点黒体炉を使用したときの測定結果の補正に使用するため,信頼性の高い測定が要求される.
0.02% は,当該の放射温度計で銅の凝固点温度(1084.62℃)近傍において約0.02℃ の温度差に相当する.
この温度差は放射温度計のJCSS校正の不確かさ0.30℃ と比較して10分の1以下の大きさであることから,補正値の不確かさとしては十分に小さく問題のない程度であるといえる.
この0.02% の差が生じる原因について,900nm単色放射温度計を使用して以下の確認作業を行った.

第4図 650nm単色放射温度計の面積効果測定結果
第5図 900nm単色放射温度計の面積効果測定結果
第6図 放射温度計の設置状態と環境による影響

第1表 石英ガラスと放・ヒ温度計の間の反射光の影響
第2表 室内灯による反射の影響

(1) 放射温度計の対物レンズや筐体による反射の影響
石英ガラスと放射温度計は400mmしか離れていないため,石英ガラスと放射温度計の間で光が重複反射している可能性がある(第6図).
この確認のため,放射温度計の設置角度を石英ガラスの法線に対して± 5度,± 10度上下に傾けて測定を実施した.
角度は,対物レンズが上向きになる方向をプラス,下向きになる方向をマイナスとした.
その結果が第1表である.
反射の影響があれば設置角度によって差が生じるはずであるが,その差の最大値は0.002% と非常に小さく,本影響によるものではないと判断した.

(2) 周囲環境からの迷光による影響
測定波長650nm,900nmの単色放射温度計は常温において周囲環境の赤外線の影響は受けにくいとされている.
念のため,室内灯を点灯した状態と消した状態で試験を実施したが,測定結果は0.001% の桁まで一致し,影響がないことが確認できた.
第2表に測定結果を示す.
上記の確認作業では0.02% の差の原因は解明できなかったが,放射温度計の設置状態や環境による影響は測定結果に影響しないことが確認された.
絞り径18mm以上の面積効果は比較黒体炉を使用した比較校正のために使用する.
定点校正とは異なり,比較校正では校正の不確かさが大きいことから0.1%以下の面積効果補正の差は実用上問題にならない.

5. まとめ
電動スライダを使用した面積効果測定装置を製作し,その測定結果の妥当性を確認した.
積分球を使用した面積効果測定装置は,一般には絞り板を手作業で交換することが多いため効率が悪いとされるが,本装置では最初の放射温度計と絞りの位置決め以外は自動化を実現し,簡便に実施可能である.
絞り径9mmから72mmまで9個の絞りによる測定の所要時間は約20分である.
仮に手作業で絞り交換を行った場合,2〜3倍の時間を要する.
この装置を校正に導入することで,従来は実施されていなかった校正品の単色放射温度計の面積効果補正が可能となり,校正結果の信頼性をより高めることができる.
測定結果の妥当性の確認として,産総研の測定結果と比較した.
その差は絞り径9mmにおいて約0.02% であり,温度に換算しても十分小さく問題のないことを確認した.

6. 謝辞
本測定装置の製作と性能評価において,産業技術総合研究所物理計測標準研究部門の山田主席研究員から貴重な助言を賜りました.
ここに感謝の意を表します.


参考文献
(1) L.Ma,F.Sakuma:Improvement of size of source effect measurement of standard radiation the rmo meters,Proc.SICE2007,p.1743 1748
(2) Y.Yamada,Y.Wang,Y.Shimizu,& K.Minahiro: Size of source effect correction for radiation thermometers,Proc.SICE 2013,p.389 394
(3) Radio metric temperature measurements 1.Fundamentals,eds.Z.M.Zhang,B.K.Tsai,&G.Machin,Academicpress,2010
(4) J.Fischer,P.Saunders,M.Sadli,etal.:Uncertainty budgets for calibration of radiation thermometers below the silver point,CCT WG5 on radiation thermometry,Ver.1.71,2008
(5) H.Yoon,P.Saunders,G.Machin:Supplementary information for the ITS 90 Section 6:Radiation thermometry,BIPM CCT publications,In Guide to the realization of the ITS 90.
(6) H.Yoon,D.Allen,R.Saunders:Method so reduce the size-of-source effect in radiometers, Metrologia,42,p.89 96,2005
(7) Theory and practice of radiation thermometry eds D.P.Dewitt,G.D.Nutter,Wiley, 1988
(8) G.Machin,R.Sergienko:A comparative study of size of source effect(SSE)determination techniques・,Proc.Tempmeko 2001,p.155 160
(9) P.Saunders,H.Edgar:On the characterization and correction of the size of source effect in radiation thermometers・,Metrologia,46,p.62 74,2009
(10) F.Sakuma,L.Ma,Z.Yuan:Distance effect and size-of-source effect of radiation thermometers,AIST bulletin of metrology, Vol.1,No.3,p.559 564,2002
(平成27年12月2日受付)
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電気検定所技報Vol.50,No.5 (p79)


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